研究概要
創薬分析化学講座では、「特殊な機能を持つ分子」を開発・応用することで、これまでの方法ではできなかった生命現象の可視化や機能発現・制御を可能とし、新たな生命現象や疾病メカニズムの解明、臨床診断などに繋げることを目指した研究を進めていきます。具体的には以下のように、蛍光プローブや機能性人工タンパク質の開発、機能性高分子を組み込んだナノ分子による新規薬物送達システム(DDS)の開発について分析化学的視点に立った研究を展開します。
1.蛍光プローブの精密設計と開発
生体分子の働きを生きたままの生体で捉えることができれば、従来とは異なる新たな生命科学研究が展開できます。このためには、Chemistryにより特定の生体分子と反応して蛍光を発する蛍光プローブを開発することが極めて重要となります。このような研究分野は、ケミカルバイオロジーと呼ばれ、これまでに低酸素環境,カルシウムイオン,活性硫黄種などを高感度で検出することのできる蛍光プローブを独自の原理および新規蛍光団を基盤として多数開発しています(Angew. Chem. Int. Ed. 2020, 59, 6015. J. Am. Chem. Soc. 2018, 140, 5925. J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 13713, etc.)。そのうち6種類は市販化することにも成功し、世界中の医学・薬学・生理学などの研究者たちに広く用いられることで、新たな生命現象の解明に大きな貢献をもたらしています。
2.自己組織化デザイナータンパク質
自然界において、自己組織化によって形成される中空のタンパク質シェル構造は、物質の輸送、貯蔵、生産などに巧みに利用されています。私たちは、そのような天然のタンパク質シェル構造を遺伝的または化学的に改変することで、天然には無い様々な形態・特性・機能を持つ人工タンパク質シェルの創成を行っています (Nat. Commun. 2017, 8, 14663. ChemBioChem 2020, 21, 74-79.)。これらの自己組織化デザイナータンパク質は、ドラッグデリバリーや物質センサーなど、疾病を含むさまざまな生命現象の制御や分析へと応用することを目指しています。
3.機能性高分子を用いた新規薬物送達システム(DDS)の開発
薬物を必要な場所に、必要な時間、必要な量、狙い通りに届けるDrug Delivery System (DDS) によって、治療効果を最大限に高め、副作用を最小限に軽減させることが可能となります。私たちは、温度やpHなどの周辺環境の変化を自ら認識して応答する機能性高分子を組み込んだナノ分子の開発を行っています。精密に設計したナノ分子に薬物を搭載することで、生体内や細胞内における薬物の動きを人の手で自在に操ることを目指しています。
4.プレシジョン・メディシン分子診断プロジェクト(PreMo)
日立ハイテクおよび日立ハイテクサイエンスと、分子診断システムの開発や個別化医療のための分析技術の開発について、当講座の有する分析化学的技術や経験に基づき共同研究をしています。